数学とか競プロとかイギリスとか

イギリスの数学オリンピックの代表合宿に参加した話

イギリスの数学オリンピックの代表合宿に、3月末から4月初めにかけての6日間参加しました。なかなか珍しい貴重な経験をさせていただいたと思うので、できる限り共有できればと思います。

どこに行ったのか

ケンブリッジ大学のTrinity Collegeというカレッジで行いました。ケンブリッジ大学は幾つものカレッジが集まって成り立っており、1つ1つが独立した小さな大学のようになっているそうで、トリニティは大学内でもかなり有名なカレッジだと思います。何せみんな大好きラマヌジャンやハーディー、ニュートンの出身校なのですから!それだけで私のテンションはマックスです。

BMO(イギリスの数オリ)の進み方

前提として必要だと思うので軽く説明します。

SMC (Senior Math Challenge)

Year 13 = 高3まで参加できる数学のチャレンジで、1時間半で5択を25問解きます。結構スピードが必要です。間違えると点が引かれます。

私の学校ではYear 11(高1)の数学トップセットの生徒とYear 12,13の数学をとっている生徒全員が受けることになっていて、私は去年も先生に「受けたい」と言ったところYear 10でも受けさせてくれました(JMOと同じで下の年齢制限はない)。今年はYear 11になったので、同じ数学のクラスの友達も受けました。

毎年70万人近くの参加者が世界中から集まるそうです。一方JMOの予選は2022年の統計で5000人に達していないので、だいぶ大規模だと思います。学校が費用を負担し、私の学校のようにみんなに機会を与えるといったチャレンジが数学以外にも多いように感じるので、そこもイギリスの教育の好きなところです。科目が苦手でも受ける敷居がぐんと低くなっています。

BMO Round 1

SMCで大体上から1000人くらいの高い点数を取受けることが出来ます(年によって、125点中100-110点くらい)。そのほかのトップ6000人には、別のKangarooというチャレンジもあるので、幅広い人に機会が与えられています。

BMO1は3時間半で6問、全て筆記で解答を全て書きます。JMOと比較して、早いうちからフルで解答するのが違いです。

BMO Round 2

BMO1でトップ100くらいになるとBMO2に進みます。

3時間半で各10点の4問を筆記で解答を全て書きます。ここまで来ると問題も難しいので、これに進むと学校の先生に結構褒められます。私は15/40点で、3問フルで書いたと思ったのに全然点数が取れませんでした。ちなみに去年は8点で全然ダメでした。

 

ここを通ると、24人が春のTrinity Campに参加できます。JMOでいう春季キャンプの位置付けです。他にも女子のチャレンジであるUKMOGや、Intermediate Math Challengeから入る別のオリンピックなど沢山の数学チャレンジが行われています。

というわけでこのTrinity Campの参加記を書いていきます。

Trinity Campの流れ

Day -N

2月中頃のHalf termの時に、数学の先生から「Trinity Campに招待された」とのメールが転送されてきました。何が起こったのかわからず、はてなマークでいっぱいの頭でとりあえず春休みの飛行機の予約だけ変えてもらいました。

上位の人の名前や成績はwebで発表されていて、その人たちとの差が凄すぎることから確実に点数ギリギリで招待がかかったとわかっていましたが、それでも嬉しかったです。そのためJOIGの方を頑張った方が良いと思い、対策は特にしませんでしたが、獲得!金メダルと船旅は買っておきました。

Day 0 

JOIGの春合宿で日本に帰っていたので、朝の便に乗って渡英してホストファミリーの家に泊まりました。日本滞在、短すぎました...

Day 1

お昼を食べた後にタクシーでケンブリッジ大学まで向かい、自己紹介をしてから部屋に向かいました。自己紹介した先生方、ヘルプのトリニティカレッジ現役大学生、そしてその他のスタッフの方々の人数がとても多い!大学生は10人くらい、先生方も10人弱と多くの人が関わっていることがわかりました。結果、先生方と大学生に関しては全員が講義をして下さったので、見守りだけではなく実際に選手と強く関わってもらえました。

 

講義やテストが行われる建物と宿泊場所は隣り合っており、どちらもとても近代的で綺麗な建物です。建物自体のキーカードと部屋の鍵が渡されるのでセキュリティもバッチリ。

ちなみに全員交通費と宿泊、朝昼晩の食事が無料。部屋が2人でも、なんなら3人でも(ベッドさえあれば)行けるのでは、というくらい広くて綺麗で素敵でした。太っ腹!

 

ご飯はハリーポッターの食堂のようなところで食べました。ここは宿泊場所から10分ほど歩くところで、立派な門をくぐり、左右に緑を眺めて進んだ先にある大学生の寮と回廊(最初の写真)を通ってたどり着きます。

写真は日中ですが、夜は少し暗めでテーブルの上のライトがぼんやりと光っており、とても雰囲気がありました。また写真に写っているヘンリー8世(イギリスの歴史では有名人)など、偉人の肖像画が沢山飾られていました。見たことのある肖像画でおそらく数学者だったものがあるのですが、結局誰だかわかりませんでした。天井近くはどれもステンドグラスでこれも美しく、建物内の装飾も豪華絢爛な雰囲気でイギリス感を感じられます。

 

食事もそれなりに美味しく、デザートが出たりヨーグルトやサラダが取れたりとレパートリーには困りませんでした。イギリスの食事は一般的に悪い噂しか聞かないと思いますが、私は聞くより美味しいと思います(日本の食事の方が良いのは当然ですが)。

 

 

 

スケジュールの紙がここで渡されました。講義はいくつかの例外を除いて、全てキャンプに来たことがある組と初めて組で分かれていました。交流や他のイベントは全員一緒です。1コマ1時間半で、午前と午後に2つずつ、夜は日毎に違うイベントが企画されている感じでした。

6日間の間にTeam Selection Testは2つしかありません。他は講義や自由時間・交流の時間に当てられており、教育的な目的がこの合宿の意義を大きく占めているなと感じました。

講義の内容などはどこまで言って良いのかわからないのであまり言いませんが、初日の講義は概ね大丈夫でした。ただすでにこの時点で他の人とのレベルとの違いを感じ始めてはいました。講義の多くは、問題を解いてみてその解説を通してストラテジーを学ぶという構成だったので、解くスピードの差から危機感が...。

 

その日の夜はリレー企画。4人ずつのチームに分かれて短めの数学の問題をテーブルからとりにいき、解いたら次の問題を取っていくという感じでした。やはりチームメンバーの解くスピードが早すぎて全くついていけなかったですが、数問は1番(タイ)で解けました。時差ボケがありましたが、純粋に楽しむことができました。

 

自由時間はこの日以外も色々なゲームをやりました。Avalonやone nightという人狼みたいなゲームや、sevensという七並べのようなものもやりました。sevensは、とても似ているのにほんの少し違って面白かったです。

Day 2-3

前日の危機感というレベルではなく、とにかくボコボコにされました。皆テクニックや定理の知識量が半端ではなく、問題を解くスピードも全く違ってレベルの違いを見せつけられた気分でした(私が勉強不足なだけです)。

苦手な幾何とかでは困ってしまうだろうなと思っていましたが、意外と他の分野もそれと同じくらい困ってしまいました。特に一番ましだと思っていた数論の講義が本当にちんぷんかんぷんで、かなり落ち込みました。問題が解けないだけではなく解説からです。そもそも語彙がわからないという状態に久しぶりに陥り、知らない概念や使ったことのない定理のオンパレード、試験がやばいという以前についていくのが大変すぎました。

 

3日目の最後はTST1直前ということでwrite-upのコツが1セッションありました。そこでもついていけなさすぎて大学生の人を困らせていて本気で泣きそうでした。ただこのセッション自体は、このようなことを全く教えてもらったことがないのでとても役に立ちました。

Day 4

初めてのTST1です。IMOと同じように4時間半で3問ときます。8時スタートだったので割ときつかったです。問題については、JMOと同じで言及厳禁なのでノーコメントです。何かしら自信のあることが書けただけ、自分的には合格点だと思います。

ランチでキャンプの感触を聞かれた時に、あまりうまくいっていないとこぼしました。すると手伝ってくれている大学生の人が「大学に行ったら自分だけ出来ない気分になる」、キャンプに何回も来ている人も「初めてのキャンプなら誰でもそんな感じだし、僕もそうだった!」とみんな親切でした。優しい〜!

フリータイムの後、みんなで集まって解説のセッションが2時間ありました。割と惜しいところまで行っていた気がしたのでさらに嬉しくなりました。

晩御飯の際に、取りまとめの先生が私の1問目をマークしたと教えてくれました。昨日のwrite-upのセッションでのtipsを意識したのがよくわかって、すごく良かったよと言ってくださりとても嬉しくなりました。一応今年のEGMOの補欠なので、来年はいい位置にいると思うよとも言われました。

 

フリータイムには解説を聞いてモチベーションが上がったので、その後は本を読んで勉強しました。交流や講義があるとこのようにやる気も上がるのが良いところかなと思います。

Day 5

この日はDay 1-3と同じように講義のみの日でした。

夜に毎年やっているらしいクイズ大会があったのですが、初めのセクションが全部日本に関することでした(今年のIMOの開催地が日本なので)。ただ、鎖国中に出島に唯一入れたヨーロッパの国は?や日本の二大宗教は?、温泉に入れないスタッフがいるがそれはなぜ?(答:タトゥー)など、私は日本人だから知っているけど...というような難しい質問がかなり多かったです。

他のセクションは、イギリスのクイズ大会でありがちなスポーツフットボールポップカルチャーで私は全く役に立ちませんでした!笑 でもとても楽しかったです。

Day 6

TST2の日でした。受ける前に部屋を空けなくてはいけなかったので、朝はとてもバタバタしていました。

昼食後に解説があったあと、3時に保護者も含めてお茶があって解散となりました。そこで、やはりキャンプに毎年数人の生徒が参加する学校がいくつかあること、参加者の多くが実際にCambridgeのTrinity Collegeに進学していることなどを聞き、やっぱりそうなのか!と思いました。

まとめ

みんなのレベルが段違いだと実感を持つことができました。この合宿に参加できた幸運で、IMO銀メダルの人などと交流でき、明確な目標ができ、そしてレベルの高い講義から得られた学びと沢山余った問題と、とても充実した週になりました。

今年は自信を持つことなく終わってしまいましたが、来年はしっかり勉強してもう少し自信をつけて帰って来れるようにしたいです。

これを経て、船旅の英語原著EGMOを買ってみようと思いました。英語の数学本はBMO 1/2 レベルしか持っていなかったのですが、英語でこのレベルの数学を身につけるには、それ自体を英語で学ぶことが必要だなと感じたからです。

 

ヨビノリのパーカーです。大学生の人にジョークだと伝わった時はこれで私の全ての目的が果たせたと思いました笑 いえい!